番外編|学びのサロン スペシャル対談 haku・白鳥秀紀さん× SHI/GE・薫森正義さん
文化のプラットフォームとしての“salon”を目指していきたい
20年以上のキャリアを持つ薫森さん。これまで培ってきた経験を同じ時代に生きる美容師さんに還元したいと、仕事への向き合い方や美意識、センスの磨き方について語ってくれることに。 今回は、薫森さんの京都移住を後押ししてくれた一人である、京都の美容室「haku」のオーナースタイリスト白鳥秀紀さんとの対談をお届け。美容への熱い思いを語ってくれました。
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二人の出会いは、白鳥さんのギャラリーから
↑町家を改装した木の温もりを感じるサロン。1階のアートギャラリーは自由に入れるので、外国人観光客の姿も多く見られる。
白鳥さんのサロン「haku」は、1階がアートギャラリーになっています。開放的な大きな窓から作品が見えるので、気になってふらりと立ち寄る人も多いそう。薫森さんと白鳥さんの出会いもこのアートギャラリーがきっかけでした。
薫森:
各地のギャラリーをめぐるのが好きで、京都もあちこち訪れていたんです。ちょうど京都に行く用事があったときに、好きなカメラマンの個展があり、開催していた場所がhakuのアートギャラリーでした。 個展のことをインスタのストーリーズに投稿したら、白鳥くんから「ありがとうございます」と返信があって。そこからやり取りがはじまったんだよね?
白鳥:
はい。僕からしたら、業界誌で勉強をさせてもらっていた雲の上のような存在の方ですから、うれしくて。あの薫森さんが!!って。
薫森:
そんな風に言ってもらえるとうれしいけど、僕からしたら今は白鳥くんのほうが頼れるお兄さんという感じ。京都のことを色々と教えてもらっているから。 はじめてやり取りをしたときは、2階にヘアサロンがあることは知っていたけど、ギャラリーの話だけをしたような……。
白鳥:
そうですね。もう2年くらい前のことだから、記憶はあいまいですけど。
薫森:
実はその頃から、東京を離れて一人でやってみようと考えはじめていたので、候補地だった京都のことを教えてもらおうと僕から食事に誘ったんです。色々と話を聞いて、白鳥くんのことを知れば知るほど、視野の広さに驚かされ、「先生」と呼びたくなるほど! 白鳥くんも、京都に移住してきたんだよね?
白鳥:
はい、出身は千葉です。専門学校を卒業してからはニューヨークで美容師をやっていました。3年くらいですけど。僕は田舎が好きなので、肌に合わなくて……。もともとアートや美が好きで、衣食住全てにおいて文化的で、美意識が根付いている京都を選びました。歴史のある街で、脈々と受け継がれてきた美意識があり、時代を経てさらに育ってきている。表層的ではないところに惹かれるんですよ。
薫森:
外から見ると、こだわりが強いと感じる部分もあるけれど、そのこだわりがあるから伝統や古き良きものが続いているんだろうなと思う。東京にいると、どうしてもトレンドを追わないといけないから、表層的になりがち。それなりにこなせるけれど、一つのことを深く追求できない環境なんだよね。流れにのらないといけなくて、次から次へと機械的な作業になりがち。それで心にゆとりがなくなっていくことが怖かったし、このままではダメになると思ったのも、東京を離れようと思った理由のひとつ。
白鳥:
社会の波にのまれて自分の呼吸ができない感じがしますよね。
薫森:
そうそう。今、一人で色々なことを決めて、自分のペースでやっていると「生きている」って感じがするし、本当にやりたかったことはコレだなと感じている。 僕はサロンだけに集中しているけれど、白鳥くんはサロンやギャラリーをいくつか持っていて、すごいよね。ギャラリーもスペースを貸しているだけじゃなく、自分たちで企画を立てて作家さんにオファーしているんだよね?
白鳥:
はい、年間約15の展示を続けています。僕以外にもギャラリースタッフがいるので、みんなで企画を出しているから、僕一人の負担が大きいわけではないですよ。サロンワークも週5でやっています。
↑年間約15の企画展を開催。薫森さんが、このアートギャラリーを訪れたことがきっかけで白鳥さんとの縁がつながった。(写真提供/白鳥さん)
美容を通じて社会貢献をしたい
ギャラリーの運営だけでなく、昨年は福祉の学校にも通ったという白鳥さん。高校時代にボランティアの本を読み、美を通じて社会をよくしたいと考えていたそう。そのために、まずは美容師として影響力を持つ人になりたいと、世界に飛び出して行った。
白鳥:
自分が病気をしたことがひとつのきっかけでもあるのですが、病気を抱えている人や介護を必要としている人って、自分らしさや人間としての尊厳を奪われがちなんです。きれいでいることは後回しになっている。日本はまだまだ介護美容が成熟していないので、そこに対してどういうことができるかを考えるために、福祉の勉強をしました。今すぐ、介護美容に対して僕が何かできるかといったらまだまだなんですけど。
薫森:
視野が広いよね。それに白鳥くんは、本当にやりたいことにちゃんと向き合って、動いているのがすごい。東京にいたときは、業界誌の撮影などさまざまな経験をさせてもらったけれど、美容の力をもっと社会に生かすことができたらいいなという思いは僕にもあって。そのためにまずは自分がやりたいことをしっかりとやって結果を出し、影響力を持つこと。でも、東京にいると流れにのらないといけなくて、気づくと抜けだせなくなっているんだよね。
白鳥:
美を提供する人が美しい生き方をしていないと、美しい人はつくれない。技術は優れていても、息苦しそうに見えてしまうときがありますね。
薫森:
そう。さっきも言ったけど、心にゆとりがなくなるんだよね。でも、本来はゆとりがないと、目の前のお客様、相手のこと、世の中のことを心の底から思うことはできないと思うんですよ。
白鳥:
その通りです。
薫森:
だから、僕は今、自分のことを自分でコントロールできている生活はあっていて、ゆとりが生まれてきている感じ。
ヘアサロンは髪を切る場所だけでなく、心を育む文化の社交場でありたい
ギャラリーを併設したヘアサロンづくりは、ニューヨークでの経験もいきているそう。
白鳥:
文化を意味するカルチャーって、ラテン語のカルチュラが語源になっていて、カルチュラは耕すという意味があるんです。将来、どんどんデジタル化が進んだときに、ヘアサロンは、数少ない人と人との交流の場になるだろうから、人の心を育む畑のような場所でありたいし、僕ら美容師はその畑、土壌を耕す人でありたいと思っているんです。その一つとして、ギャラリーをやっています。外見の美しさだけでなく、美しい心も育む場を作れたらと考えています。
薫森:
素敵な考えだよね。僕も、ただ髪を切る場所という感覚ではやっていないかな。僕じゃなきゃできないことを提供したいと思っていて。ただ、白鳥くんみたいにあれこれはできていないんだけど。
白鳥:
薫森さんのように美容業界に影響力を持っている人が、SNSでそういう考えや美意識をアウトプットして共有してくれているのは心強いですよ。インスタの投稿もいつも楽しみにしています。
薫森:
価値観の共有といえば、最近やっと京都の人たちと少しずつつながりができて、色々な価値観に触れることが楽しいと思えるようになったんだ。マンネリが一番イヤだから、新しい発見をしながら常に感覚を磨いていたい。白鳥くんは、バーやってるよね?
白鳥:
そうですね。美容室以外に初めてやったのがバー。髪を切りにくるお客さんは、僕の感覚に近いというか、似ている人が集まってくるので、その人たちの交流の場ができたらいいと思ってバーをはじめました。
薫森:
まさにサロンだよね。
白鳥:
バーからはじまり、京都のアートシーンにどんなギャラリーがあったらいいかなと考えてはじめたのがギャラリー。8年やってきてある程度やりたいことが具現化できました。最近では心を耕すことに、カテゴリーが曖昧になってきたので、ボーダーレスに衣食住、生きているということ、を提案する場を作れたらと考えています。
↑〈左〉京都御所南エリアにあるギャラリー「kokyu kyoto」で開催した高橋成樹さんの個展。伐採から加工まで手作業で行い、素材が持つぬくもりを感じる作品。(写真提供/白鳥さん)〈右〉ギャラリーで魅せられた薫森さんが、自身のサロンに迎え入れた高橋成樹さんの作品。
一人は好きだけど、さみしがり屋という二人
1日24時間では足りないのでは?というくらい、忙しそうな白鳥さん。リフレッシュ法はあるのでしょうか。
薫森:
よく、ソロキャンプをしてるよね? 琵琶湖のほうで。
白鳥:
オンとオフの切り替えは意識的に行っていて、家にいるときは基本的に仕事はしません。それでもパソコン作業が必要になる場合は、近くの湖岸でソロキャンプをしながら取り組むことがあります。何人かで出かけるキャンプでも、それぞれが自分のテントを持っているのが理想ですね。まさに寂しがり屋なくせに一人が好き、という性格がよく表れています。みんなで集まってコーヒーを飲みながら他愛もない話で盛り上がり、またそれぞれソロの時間に戻る。一人の時間を大切にしながらも、楽しい瞬間はみんなと共有したいので、そうした形が理想です(笑)。
薫森:
僕も一人が好きだから、その感覚はちょっとわかるかも。一人サロンをやってみてわかったのは、会社に所属しているほうがラクだということ。人間関係とか面倒なこともあるけれど、苦手なお金の管理などをしなくていいので、自分がやりたいことに集中できる。最近、ちょっとどこかに所属したいと考えはじめていて。また、相談させてください!
↑ソロキャンプでリフレッシュするという白鳥さん。パソコン作業をしつつ、のんびり一人時間を過ごす。琵琶湖畔がお気に入りの場所。(写真提供/白鳥さん)
自分のためだけでなく、社会へ循環できる表現をしていきたい
現在41歳の白鳥さん。薫森さんはもうすぐ50歳。将来の展望は?
薫森:
美容の枠にとらわれずやっていきたいというのは、白鳥くんと同じ考え。僕は何歳で辞めるとかは考えていなくて、美容師として自分の経験やスキルを還元していきたいとずっと思っています。美容師は40歳定年説というのがあって、40歳くらいになるとプレイヤーとしては卒業して経営にまわったりする人が多い。だけど、人生100年時代だし、40歳でもまだまだ成長できるから、思うような結果が出せていない人たちをサポートするオーダーメイドのセミナーをやっていきたいです。カットの技術だけでなく、心の在り方も含めて。
白鳥:
僕は薫森さんのインスタでの発信が好きで、美容師に大きな影響を与えていると思います。普通の人を素敵に魅せるのが一番難しいじゃないですか。それを自然にやっているのがすごいと思っていて。あの発信スタイルは続けてほしいですね。
薫森:
ありがとう。一般の人、髪に悩みを抱えている人を素敵に変身させたいんだよね。困っている人を助けたいというのがベースにある。美容師さんも含めて。
白鳥:
僕は50歳になったらとりあえず、世界を旅してまわりたい。アトリエも創りたいし、美容師を辞めるわけではなく、営みの一部として全てが自然に循環できたらいいなと考えています。朝起きて、畑仕事に行く感覚。自分の暮らしの豊かさだけを求めるのではなく、日本の社会に感謝しているので、与えてもらうだけでなく自分から与えられる存在でもありたい。 インスタにも投稿した次にやりたいことのイメージがあるんだけど、ちょっと披露していいですか。
「生きるということ」
仕事をすることは、与え、与えられること
与えるために重ねてきた努力が、誰かを支え、私を支えること
共に生き、共に歩み、好きなことで日々を彩ること
美しさを感じ、美しいカタチを問い続けること
物を愛で、人を愛で、暮らしを愛すること
自然に触れ、感謝し、社会と調和すること
与えることは巡り巡り、また自分へと戻る
地球もまた、全てを循環させて生かし合う
感謝し、愛し、他者を愛しながら
自分も大切に、新しい風に触れる旅をする
いつか土となり、地球の一部となり
巡る命の中で、私は眠りにつく
ただ白き心で、呼吸をする
薫森:
白鳥くんの表現力にはいつも感心させられっぱなし。僕にはない視点で、いつも刺激をもらっています。これからも、よろしくね!
↑白鳥さんが手掛けているメディテーションスパサロン「kokyu」。手仕事にこだわったマッサージで、明日から自分を大切にしようと気づいてもらう時間を提供。(写真提供/白鳥さん)
白鳥さん、薫森さんに共通しているのは、美容の力を信じ、外見だけでなく心を豊かにする文化的活動をしていきたいということ。次の展開にも期待が高まります。
(2025.1.9 撮影/廣江雅美 取材・文/岩淵美樹)
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