vol.3|学びのサロン「センス」
センスは生まれ持った才能ではなく、日々磨き上げていくもの。 クリエイティブとの付き合い方とは
20年以上の美容師人生で得た経験が、同じ時代を生きる美容師さんのお役に立てればと、 技術セミナーでは伝えきれない心の持ち方や感性の磨き方について語ってくれることに。
今回は、美容師のクリエイティブ活動についてです。 薫森さんのセンスのよさは、サロンの内装を見れば一目瞭然。センスは生まれ持ったものと思われがちですが、「日々の生活のなかで、探求心を持つことで培われる」と言います。ヘアデザインの参考にとアートに触れる美容師さんは多いけれど、見て満足してしまう人もいるのでは? 普段、薫森さんがどんな視点でアートに触れているかを教えてもらいました。
SHI/GE
京都府京都市上京区堀松町419 MACHI WORK 御所西3‐F
Instagram
@magemori
(お問い合わせや予約について、上記の薫森さん Instagramをご確認ください)
作品だけでなく額装や照明など「作品の見せ方」を観察
休日になると、美術館やインテリアショップに出かけます。好きな作家の展覧会だけでなく、話題の作品を見に行くことも。 絵画や写真を見て、その構図や色使いに刺激を受けるのはもちろん、僕は作品の展示方法に注目しています。 配置の仕方、照明の当て方、額装などその作品をより魅力的に見せるためにどんな工夫がされているのかをついつい見てしまいます。照明を上から当てるか下から当てるか、自然光をいかすのか、光だけでも異なって見えるものです。 作品を飾る周りの環境もアートの構成要素だと思っています。それは、ヘアデザインにもつながることです。フォトコンテストやヘアショーでも光の当て方、余白の作り方も髪形と同じくらい大切なものですから。
美術館だけでなく、カフェや書店、アパレルショップなど日常生活の中でも視点を変えれば、同じように“見せ方”を深掘りすることができます。 カフェのインテリア、本の並べ方、洋服の飾り方、店内のBGMなど細かく観察していけば何か発見があるはずです。 視覚に限らず、五感全てを鍛えていくと引き出しが増えていきます。
作品を見たときの感情は理由まで分析し、言葉にする
ひとつの作品を見て全員が同じ感想を抱くことはないですよね。好き・嫌いも分れるはずです。その感情に対して、なんとなくの感覚ではなく、なぜ好きなのか(嫌いなのか)、なぜ美しいと感じたのかを言葉にするようにしています。 美しい、可愛い、カッコいいの基準は人それぞれなので、周りと足並みをそろえる必要はありません。自分が可愛いと感じたのなら、それを信じること。でも、なぜ可愛いと感じたのかを言葉にしてください。そうすることでサロンワークのときも例えばお客様に、「前髪を眉上でカットすると〇〇だから可愛く見えますよ」と説明ができるようになります。感覚だけでお客様を納得させるのは、難しいものです。
僕は、いわゆるトレンドというものにあまり惹かれないのですが、話題になっている作品も見るようにしています。やはり、多くの人にウケているものには何かしら理由があるからです。なぜ流行っているのか、なぜみんなが「イイ!」と言うのかを分析するようにしています。
分析することはアートに限らず、例えば売れているアイドルや音楽、トレンドのファッション、行列ができるスイーツ店など、どんなことに対してもできることです。なぜ売れているのか、なぜ多くの人を惹きつけるのか、“なぜ”を分析するクセをつけるといいですね。
作者の背景や作品を作るプロセスを知ることも学びになる
以前、デイヴィッド・ホックニー(イギリスの芸術家)の展覧会に行きました。彼は87歳になるのですが、今も新しい作品を生み出しています。 これまで絵画や版画、写真、舞台芸術などさまざまなジャンルの作品を発表していて、ひとつの作風にこだわらず新しいことにチャレンジしているんです。最近では、コロナ禍にiPadを使って新作を生み出しました。 昔、得た技術に頼らず、その時代ごとに新しいツールを取り入れたり、新しい作風にチャレンジしたりする姿勢に感銘を受けました。
美容師も同じで、チャレンジしていかないと進化も成長もできないと思うんです。新しい感覚やチャレンジ精神は、若い世代ならではと思いがちですが、キャリアを積んできた僕ら世代やさらに上の世代こそ新しいことにも取り組むことで、この先も価値ある美容師として続けられるもの。経験だけに頼っていては停滞する一方です。
日々のインプットでたまったアイデア、知識の引き出しから作品を作る
コンテストや業界誌でのアートワークのために、美術館を訪れることはほとんどありません。興味のある展覧会を見に行き、そこで得た刺激からテーマが生まれることはありますが。
業界誌などテーマが与えられた時は、ヘアデザインの前にどんな絵にしようか、どう見せようかを考えることが多いですね。それは、最初にお話しをした作品をどう魅力的に見せるかにつながります。ヘアだけでなく1枚の写真としてどういう演出にしたら素敵に見えるかを考えるのです。
目に留まるドラマティックな作品を作るためには、カットの技術だけでなく見せ方も大切。そのバリエーションをどれだけたくさん持っているかで、差がつきます。僕はもともと写真やインテリアが好きで、そこから派生して美術館にも頻繁に足を運ぶようになりました。芸術に触れるだけでなく、普段の生活にもヒントはたくさんあるもの。生まれながらの天才はほんの一握り。普通のことでも深く追求し、突き詰めていくことで、質のいい魅力的なヘアデザインが生まれると思っています。それは、クリエイティブだけでなく、サロンワークにおいても発揮されるもの。
最後に、薫森さんの作品をインスピレーションを得た写真集とともにご紹介します。
(2024.07.23 写真は全て薫森さん提供 取材・文/岩淵美樹)
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