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皆様、冒頭に唐突ですが!
奈良の「月ヶ瀬健康茶園」で作られている「自然栽培茶」と書かれた「煎茶」を買って飲んでみてください。淹れ方もとても簡単で、難しいことは何もありません。湯ざましをすることもなく、パッと熱湯を注ぐだけです。今までに体験したことのないような、五臓六腑が喜ぶような美味しさです。
「茶」は、奈良時代に「薬」として中国から伝わりました。元々は、森に育つ樹木で、新芽の季節には、山菜のようにその芽を摘み、煎じて飲んできたという歴史があります。そんな元々の要素を残しているお茶なのだと思います。
文中「茶山」と言う言葉がたびたび出てきます。「茶山」で栽培したお茶を「月ヶ瀬健康茶園」では「自然栽培茶」と呼んでいます。「茶山」は昔は色々な樹木が生えていた場所に、茶を植えて茶山にしたところ。元々茶の生育に向いている場所です。人間が手伝うべきことは、森だった頃と同じ環境を保ってあげること。収穫後に刈り落とした茶の枝やススキ、落葉広葉樹などを畝に落とせば、自らの力で分解し土に還ります。農薬はもちろん、肥料さえも必要ありません。
今回は奈良の「月ヶ瀬健康茶園」をお訪ねしました。ここのお茶を初めて飲んだ時の感動は忘れられず、「行きたい、行きたい」と思っていた場所。「和の国エブリィ。」での紹介を機に、ようやく来ることができました。茶園を案内してくださったのは、代表の岩田文明さん。奈良の北東端にある岩田さんの茶園に思いを馳せながら、読み進めていただけたら嬉しいです。皆様に味わっていただきたいのはもちろんですが、サロンのお客様にもぜひ。とっておきの一杯になりますから。
岩田
ようこそおいでくださいました。遠かったでしょう。
吉川
東京の自宅から京都まで3時間、京都から2時間。正直、遠かったです。
でも、本当に来たかった場所です。
岩田
奈良といっても、県の北東部の端っこ。京都と滋賀と三重のギリギリ県境に位置しています。
吉川
観光協会の案内には「梅林の郷」「大和茶の郷」ってありますね。
Profile
月ヶ瀬健康茶園株式会社
代表
岩田 文明(いわた ふみあき)さん
岩田
私が受け継いだ2001年には2.2haの茶園すべてが有機栽培になっていました。父も母もお茶の栽培に適した月ヶ瀬の自然環境を信じていましたし、大切にしたかったのだと思います。
吉川
正直、岩田家はすごいですね。今でこそ、オーガニックや有機栽培は知られるようになってきましたが、1984年から有機栽培に切り替えていったなんて特別だと思います。そして今では茶山も茶畑も、茶園すべてが有機栽培になっているなんて!
岩田
これから何箇所か園内をご案内しますので、まずはどうぞマップをご覧ください。
↑岩田さんに渡された手描きの「月ヶ瀬健康茶園マップ」。
吉川
ホームページにもあるマップですね。こんなマップを作ることからも、岩田さんの茶園への思いが伝わってきます。みなさん、緑色の畝が並んでいるところが茶畑です。だいぶ点在していますね。
岩田
耕作をやめられた方から引き継いだりもしているので、現在の「月ヶ瀬健康茶園」はあっちに茶山あり、こっちに茶畑あり。29ヶ所あります。
吉川
茶山? 私の中ではお茶=茶畑のイメージなのですが。
岩田
もともと樹木が育っていた山の地形を壊さずに、お茶のタネや挿木を植えて茶園にしたところは「茶山」と言います。大型重機で山を切り開いて造成したところが「茶畑」です。
吉川
もとは茶山ばかりだったというわけですね。
岩田
はい。全国的にも高度経済成長期時代に茶山から茶畑に変わっていきました。重機が入れなかったところが茶山として残ったのですが、茶山と茶畑が混在しているのも月ヶ瀬の特徴です。当園では茶山は自然栽培で、茶畑は有機栽培で茶樹を育てています。
吉川
マップを見ると、岩田さんのところは茶山が多いですね。
岩田
2/3は「茶山」かな。あれこれ取り組んできて、「茶山での自然栽培」こそが私自身がやっていきたいお茶作りと実感しています。
岩田
まずご案内したここは「キトロデ」という名前の茶山です。マップでは左上の16にあたるところですね。ここにはタネから育った「やぶきた」「やまみどり」という品種が植わっています。祖母の時代の樹齢50年以上お茶の木も現役です。水はけがよく、日差しが斜面全体に当たるので、生育が旺盛で、毎年安定した品質のお茶ができます。
吉川
樹齢50年でも茶葉に適した新芽が出るのですね。「タネから」とおっしゃいましたけれど、挿木で植えるものとばかり。どっちがどうとかあるのですか。
岩田
良し悪しではなく、私は役割が違うと考えます。この60年、優良で均一な品質のお茶が求められ、頑張ってお茶農家として生きていくには「茶畑を造成して挿木を植える」のは自然な流れでしたし、大手飲料メーカーさんと契約をしている場合などはそれなりの収量も必須です。
吉川
優良な茶樹の遺伝子を持った挿木の苗で効率よく育てるのは当然ですね。
岩田
実際、タネからの栽培、ましてや私がやっている自然栽培は育ち方にばらつきが出ます。デコボコ不揃いの畝ができるので、刈るのも機械で一気にガーッとはいきません。ただタネから植えた茶樹には根がとても強いという特徴があります。山の斜度があれば、より土の奥深くまで大根や牛蒡のようにまっすぐ下に根を伸ばし、十分養分を吸い上げることができます。気候の影響も受けにくい。だから樹齢60年でも毎年元気に新芽を出すことができます。実際、肥料をあげても反応は薄。逆に茶畑で育てている挿木の根は横に広がるので、肥料を待っている感じがします。
↑肥料を欲しがらず、「ゆっくり、小さく、力強く」育つ自然栽培の茶樹。ここはマップ15の「長引・宮山」という茶山。月ヶ瀬地域で最も標高が高い山頂から急勾配の斜面に、紅茶になる「べにふうき」や「べにほまれ」が植えられていました。
吉川
自然栽培と有機栽培の違いも、お伝えしておきましょうか。
岩田
そうですね。有機栽培は化学肥料や農薬を使わず、堆肥や菜種、米ぬかなどの有機肥料のみを利用する農法です。自然栽培は有機肥料すら与えません。与えるのは落ち葉、刈り落とされたお茶の葉や枝、ススキ、笹チップなど。地域に育つ自然の草木だけ。だいたい1年で分解されて、土に還ります。
吉川
地域の草木を丸ごと茶園に還す。それが土となり栄養源になって、茶樹が育って新芽が出る。まさに循環型。農薬や化学肥料を使った栽培ではこうはいきません。刈り落としや落ち葉を分解する力が足りないのです。
岩田
まさに。そしてやってみて分かったのは自然栽培、循環型にするには収量を減らすことが大事だということでした。収量を上げるにはある程度の面積が必要です。ですので、耕作放棄地を引き継いで面積を確保できるのは、ありがたいことでもあります。
吉川
耕作を放棄した人の畑を引き受けることで、全体量は確保できる。人が手放したものを生かす。むしろ今こそ自然栽培ができる時代のような気がします。
岩田
ほんとうにそうですね。月ヶ瀬の特徴はお茶を栽培する上で大切な自然条件が茶園ごとに様々なので、観察と考察と実践の日々です。標高も違いますし、面白いことに、全く違う2種類の地質も混在しているのです。約1億年前、恐竜時代の花崗岩のところもあれば、5、600万年前は琵琶湖の一部だったことを裏付ける湖底の堆積粘土のところもあります。水はけだけでなく、味やお茶として飲んだ時の体感もかわります。
吉川
研究者気質の岩田さんが生まれるべくして生まれた土地ですね。そして本当に広く深く考えて、ここまでを成し遂げて。点在する茶山ごとに生産・製茶した岩田さんの自然栽培茶。ぜひ味わっていただきたいです。
岩田
茶畑にやってきました。マップは1。「梅ヶ谷団地」という名前の有機栽培の畑です。1970年頃、当園で初めて大型重機を使って開墾を行なって、挿木苗を植えた茶園です。
吉川
岩田さんのところの有機栽培茶も旨みが違うといいますか。甘みも自然で。私は胃腸もすっきりします。
岩田
ありがとうございます。有機栽培は与える肥料で味が変わります。以前、鰹が入った有機肥料で実験したことがあって。出汁のようなお茶になりました。以来、有機栽培であっても、「地域に育つ草木を、特に茶葉を土に還すべき」という結論に至りまして、茶畑にも有機肥料と共に落ち葉やススキや刈り落とした茶葉を撒いてます。
吉川
面白いですね。撒いたものがそのまま旨味に現れるとは、でも自然であるということは重要ですね。お茶はお茶らしくあるっていいですよね。それに実際、お茶の旨みは「テアニン」と呼ばれるお茶特有の成分。出汁の旨みは「グルタミン酸」。違いますしね。
岩田
私は1日3リットルくらい飲んでいます。事務所に戻りましたら、吉川さんにも美味しいお茶をお淹れしますね。煎茶を熱湯で淹れる方法もお伝えできれば。
吉川
熱湯で?湯ざましがいらないってことですか。先日、熱湯でお茶を淹れる娘をしかったんですけれど(笑)。(続く)
後半(vol.14-2)の記事はこちら
2023.7.13 (文/野村始子 写真提供/月ヶ瀬健康茶園株式会社、吉川千明)
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