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Profile
株式会社陽と人(ひとびと)
代表取締役社長
小林 味愛(こばやし みあい)さん
1987年東京生まれ。慶應大学法学部政治学科を卒業後、衆議院調査局に入局、経済産業省へ出向。その後、2014年に(株)日本総合研究所へ転職。コンサルタントとして福島の復興事業に携わるなかで、「福島が抱える本質的な課題を解決したい」という思いが募り、2017年に国見町で起業。福島と東京の2拠点生活を送りながら、農産物の流通・6次化商品の開発・地域づくりに取り組んでいます。プライベートでは一児のママ。
連載も5回目になりました。私は近年、ライフワークに加えたことがあります。それは化粧品の原料となる植物を活用して、地域発信の優良コスメをつくる次世代のみなさんを応援することです。
今回ご紹介する小林味愛さんもそのひとり。味愛さんは、福島県国見町で栽培されている柿の皮に着目。含まれる成分を分析して2020年1月に「明日 わたしは柿の木にのぼる」という、デリケートゾーンケアのコスメを発表しました。
そもそも「デリケートゾーンケア」ってご存知ですか?それは女性の大切な部分を特別に扱うという、新しいカテゴリーの美容です。今回ご紹介するのは、捨てられるはずの、福島の柿の皮を使ったもの。この柿の皮に驚くべき、抗菌、引き締め作用があったとは!少々長いですが、お付き合いください。
養蚕時代の衰退から、果物王国へ。
福島の人達は頑張った。
時代の波を乗り切ってきた大きな力が隠れていました。
吉川
緊急事態宣言も解除になり、ようやく来れました。桃・柿・りんご…、「果物王国」と聞いていましたが、本当に果樹の多いこと、多いこと。
小林
昔は養蚕が盛んな町だったそうです。生糸産業の衰退で昭和40年代後半に大転換が図られたと聞きました。桑畑を果樹の畑へと作り替えていったとか。人口約8000人の小さな町ですけれど、桃は町村単位での生産量が全国一を誇るんですよ。盆地特有の激しい寒暖差と、県内一の長い日照時間が国見特産の桃をおいしく育てます。
吉川
養蚕から果樹へ。それで全国一! 時代の波を乗り越えて、今や質の高い果物の栽培地へ。町の人の寛大さとたくましさを感じますね。
小林
はい。起業して4年経ちましたが、私は寛大な国見町の人たちに支えられて今があります。
この地に希望を見出した若い女性は、
難関の職を捨てなぜ?
地方のそれも農業に関わる仕事に。
吉川
味愛さんは東京生まれ東京育ちで、霞ヶ関の官僚だったんですよね。衆議院や経産省でお仕事していたという。
小林
ODA(政府開発援助)に関係する調査をしたり、法制に携わったり。仕事は充実していました。でも、東日本大震災のときは何もできない自分に頼りなさを感じるばかり。その頃からです。地域のことを深く知って、現場で人の支えになれたらと思うようになりました。国見町との縁は、その後転職したシンクタンクで。被災地の復興事業に携わるようになり、訪れる機会が増え、国見町の人や歴史にひかれていきました。
吉川
キャリアを捨てることにためらいはなかったのですか。
小林
なかったです。大企業のようにはいかなくても、一人でも多くの人のためになるような仕事をしたい気持ちのほうが強かったです。地方には知られざるもの、驚くほど質の高いものがたくさんあります。国見町もしかり。それらを生かせば、地域の課題を解決するビジネスになる!やりたい! 一心で起業しました。
吉川
仕事に自分を合わせるのではなく、自分の生き方に合わせて仕事を選び、拠点を選ぶ。味愛さんもそうですが、今の若い世代の仕事観や軽やかさに頭が下がります。
最初に始めたのは果物の仕事。
それも廃棄される、B級品の果物。
吉川
さてさて本題に入っていきましょう。味愛さんが福島に通うなかで、まず手がけたのが。
小林
規格外の桃の販売です。果物の規格基準はとても厳しいんです。形が不揃いだとか小さいとか、少し傷があるなどの理由から規格外になってしまう。1年がかりで収穫して、規格外だったら流通に乗れません。その分の農家さんの収入はゼロです。
吉川
それで農家さんから規格外の果物を買い取って、販売ルートを開拓したと。
小林
味は同じなのに廃棄って。加工品の原料として引き取られるにしても、1個数円の世界。でも農家さんたちは「そういうもの」と思い込んでいたようで。「規格外の果物を分けてほしい」と声をかけても最初は「売れないよ」という反応でした。
吉川
ところが。
小林
売れました(笑)。規格外の果物を東京まで運んでも販売価格を抑えられる方法を考えました。農家さんの収入にもなって、お客様には喜んでもらえる。私がやりたい仕事ってこういうことだったなぁって。
吉川
贈答品はともかくおうちで食べる桃やりんご、見た目は関係ないですよね。農家さんにも消費者にもよく、廃棄も減らせて。次に着目したのが柿の皮という味愛さん。こっちはもう規格外どころでありません。捨てられていたものですから。
小林 (笑)
↑ タンニンはポリフェノール(抗酸化物質)の一種。ワインの渋みを「タンニンが強い」と言ったりしますが、柿の渋みもタンニンです。
大量に廃棄していた柿の皮に、
驚くべき栄養成分と美容成分が隠れていました。
吉川
みなさん、この写真何かわかりますか。「柿ばせ」と呼ばれる小屋で皮をむいた柿を干しているところです。あんぽ柿を作っています。
小林
福島はあんぽ柿の発祥地でもあるんです。蜂屋柿(はちやがき)や平核無(ひらたねなし)という渋柿が原料になるのですが、皮は廃棄物。でも地域のじいじ、ばあばに聞くと「昔は柿の皮を干して子供のおやつにしていた。栄養があったから」って。栄養!! それを科学的に証明できるのが現代。果皮と完熟柿と摘果柿を検査に出してみたんです。結果はなんと“果皮優勝”。最も多くタンニンを含んでいたのが、皮でした。
吉川
「皮に栄養がある」という話はみなさんも聞いたことがあると思うんですけれど、野菜や果物の皮はポリフェノールを含んでいます。お日さまに当たると増える活性酸素から、中身を守るためです。タンニンは消臭や抗菌作用に優れ、引き締め作用もあるポリフェノールの一種。味愛さんはそこに着目し、ご紹介する「明日 わたしは柿の木にのぼる」の製品化につながっていたったと。
小林
はい。私たちが柿の皮を買い取って有効活用できれば、農地に埋め戻したり廃棄処分したりする農家さんの労力が省けます。それに何より、あんぽ柿は手間のわりには値段が安く、農家さんの所得向上につながっていないのが実情なんです。
ケアができてなかった、かつての自分も振り返りながら。
開発に3年をかけて「明日 わたしは柿の木にのぼる」が誕生。
吉川
私が「明日 わたしは柿の木にのぼる」を知ったのは、昨年の「サスティナブルコスメアワード」の審査会場でした。以前からデリケートゾーンケアは常識となっている欧米に対し、女性の生理は穢れとされてきた日本は大遅れ国だからです。
小林
小さい頃から化粧品が好きで、いつかコスメブランドをという夢はありました。でも農家さんに還元しながら私がやりたいこと、作りたいものってなんだろうと考えたときに、普通の化粧品ではなかったんです。女性の一生を応援できるような存在になり得る化粧品を作りたいと思いました。そうなるとデリケートゾーンかなって。自分の体験もあったので。私自身も官僚時代、睡眠不足、バランスが欠如した食生活、ストレスの3点セットで生理不順は当たり前、度々カンジダにもなりました。働くためにも自分の体や心に向き合うことがマストなんだって。心身ともに限界がきてやっと気づきました。
吉川
多くの女性が何らかの悩みを抱えていて、悩みのほとんどが膣内細菌のバランスの崩れによるもの。デリケートゾーンには約580種類の菌がいると言われていますが、ライフスタイルが崩れると菌のバランスも崩れて、かゆみが出たりニオイがきつくなったり。カンジダも原因の大半は腟内の細菌叢の乱れです。
小林
話を聞いてみたら「実は私も」「私も」って言う女性がたくさんいました。デリケートゾーンは自分の心と体があらわれる。何度も改良を重ねたので開発に3年もかかってしまいましたが、本当に安心してお使いいただけるものができました。国見町で栽培された柿の果皮から抽出したカキ果皮エキスやカキ果皮水のほか、厳選した植物由来成分のみを使っています。
ケアは2ステップ。優しく洗って保湿。
必要な常在菌が守られ、快適さにも明らかな変化が。
↑ (写真左)フェミニン ウォッシュ 350ml ¥4,950、50ml ¥3,190(税込)、(写真右)フェミニン オイル 30ml ¥4,400(税込)
吉川
5アイテム。まず使ってみてほしいのが「フェミニン ウォッシュ」です。顔の皮膚よりも繊細で刺激に弱く、経皮吸収もされやすいデリケートゾーンを一般的なボディソープで洗うのは、とても乱暴なことだからです。かといって排出物が多く、構造上も汚れが溜まりやすいので素洗いでは不十分なのが実情です。
小林
デリケートゾーンのPh値を崩さない弱酸性で、シミることもありません。 私は製品開発中に出産を経験したのですが、産後のデリケートゾーンケアがとても辛かった。ちゃんと洗いたいのに、痛くてシミて。だから一層泡のテクスチャーや成分に気を使いました。香りはバスタイムでリラックスできるよう、柑橘系です。肌が弱い方はもちろん全身に。我が家では3歳になる娘も使っています。
吉川
洗ったあとは保湿ですね。
小林
保湿アイテムはミストとセラムとオイルの3種類、ムレやすいデリケートゾーンの不快感やニオイの悩みを改善しながら、うるおいを保ちます。一番人気は2020年の「サスティナブルコスメアワード」でSILVER賞をいただいたオイル。ベタつかないテクスチャーを実現させました。
男性に好評の「フェミニンミルク」。
消臭に加えて、雑菌の繁殖しない環境を作ります。
↑ フェミニン ミルク 30g ¥4,180(税込)
吉川
女性寄りの話が続きましたが、今回は日本も欧米のようにデリケートゾーンケアが母から娘へしっかりとレクチャーされる国になっていくことへの願いを込めてご紹介しました。そしてもうひとつ。これは男女問わず、お客様との距離が近く、靴を履いている時間が長いサロンワークのみなさんに。脇や足のニオイケアアイテム「フェミニン ミルク」をご紹介したいと思います。タンニンは気になる汗のニオイにもとても有効なんですよ。
小林
ミルクは男性のお客様のほうが多いくらいです。足のニオイをケアしながら、かかとも保湿できます。
↑ 味愛さんの大の理解者、鈴木耕治さんと。「味愛ちゃんが養毛剤も作ってくれるっていうので、すんごく楽しみ。なるべく早く頼みます」 (笑)
吉川
今回の訪問で味愛さんが4年かけて信用を積んできたことがよくわかりました。行く先々、何も聞かずともみなさんが「味愛さんのおかげ」「町の誇り」と言ってくる。どんなに頑張っているかを私に説明してくれているようでした。
自分を愛しむことはとても大切。
ブランド名に込められた思いとは…。
小林
まだまだですが、今まで使われていなかった地域資源を価値化して、持続可能な地域循環経済は創り出せると信じています。柿の果皮も「明日 わたしは柿の木にのぼる」の原材料になることで、農家さんの収入源の一部になりました。そして女性には1日たった10秒でもケアを通して、心と体のバロメーターであるデリケートゾーンと向き合っていただけたらと思います。自分をもっと大切にできるようになるからです。
吉川
自分を慈しむことは、健やかに生きるための大テーマ。トラブルが出れば「あぁ、もっとかまってあげればよかった」と必ず思いますから。ラスト、ブランド名の話をして終わりにしましょうか。
小林
はい。「こんな長い名前、誰も覚えられない」と反対されましたが、いろんな立場で頑張っている女性への思いを込めました。「今日じゃなくて、明日でもいいよ」「木にのぼりたかったらのぼろ。どんな時も自分らしく」。明日とわたしの間の半角アキは、息継ぎの意味です。
吉川
ひと呼吸。いいですね。時代や社会が変わっても、生物として女性の機能は何も変わっていない。そこを無視すると、いろんなことに影響が出てきますから。
小林
自分自身を大事にできるような温かいブランドに育てていきたいと思います。今日はありがとうございました。そして、冬にかけて出荷が始まる、飴色に輝いた国見町のあんぽ柿。本当に美味しいんです!
2021.11. 5(文/野村始子 写真提供/株式会社陽と人・野村始子)
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